カーボンナノチューブとグラフェンの物理化学

有機ゲルの表面・界面

トワイライト蛍光顕微鏡の開発と応用

 

 トワイライト蛍光顕微鏡は、2017年に我々が世界で初めて開発した新奇顕微鏡です。液体中に浮遊する厚さ1nmのグラフェンを直接観察できる能力を備えています。観たい試料溶液に蛍光色素を混ぜ、顕微鏡のガラス板に滴下するだけ。あとは、通常の光学顕微鏡を使うように焦点を合わせるだけで、液体に漂うナノメートルの世界を肉眼で観ることができます。色素や液体の種類は選びません。見たい色で選んでもよし。環境応答型色素でターゲットの特性を調べてもよし。水でも有機溶媒でも問題ありません。(材料を専門にしている人は水に注意!トワイライト蛍光顕微鏡は微生物を非常によく検出しますから、日頃使っている水にがっかりするかも。。。)

 

特徴は、非常に弱い照明光でガラス板から百ミクロン程度の範囲だけを照らすようにしているところです。照明光はガ

ラス表面で最も強く、液中部に行くほど減衰します。まるで、日没後のたそがれのよう。闇と光のはざまでは、ちょっとした変化が良く見えます。これこそが、トワイライト蛍光顕微鏡を発案したきっかけです。

 

 どのような物質や微生物が、どのような分解能で、どのような特性を反映して観えるのか、まだ開発したばかりなので詳しくわかっていません。さて、どんな「おばけ」がたそがれに潜んでいる事やら。。。

 

 

Matsuno, Y.; Sato, Y.; Sato, H.; Sano, M. Direct Observations of Graphene Dispersed in Solution by Twilight Fluorescence Microscopy. J. Phys. Chem. Lett.2017, 8, 2425-2431.

カーボンナノチューブやグラフェンの物理化学

 これらは炭素六員環が蜂の巣状につながった構造を持つ、炭素原子のみから成る物質です。電気・熱・力学特性に優れた夢の素材として応用研究が世界中で繰り広げられていると同時に、単純な原子構造から基礎研究も盛んに行われています。当研究室では、カーボンナノチューブやグラフェンの

・液体に分散させる手法の開発

・液体中での基礎物性
・薄膜作製技術の開発
・薄膜の物理化学的特性
・バイオ関連分子との相互作用
・高分子と組み合わせた新技術の開発を行っています。
有機化学反応や高分子重合、電気化学処理といった化学的手法を活用し、分光法(光吸収・蛍光・ラマン、X線光電子)、X線回折、顕微鏡観察(AFM,SEM,トワイライト蛍光顕微鏡)、接触角測定などを用いて物性を評価しています。

ゲル界面の基礎研究
 ゼリーや寒天に代表されるゲル。ゲル化剤(高分子、低分子組織体、シリカなど)がつくる網目状の3次元ネットワークに、液体が保持された物質の状態を言います。濃厚な液体と弾みのある固体の両方の性質を併せ持っている状態です。ところで、我々が知っているゲルの構造や性質はバルク(周りにも同じものが連続して広がっている内部の空間領域)のそれであり、表面や界面での構造や性質はよくわかっていません。そこで、当研究室では次のような質問に答えるべく活動しています。ネットワークは、表面でどのように終端しているのか。そのとき液体はどう振る舞うのか。もし表面とバルクで違いがあれば、その違いはどのくらいの範囲に及ぶのか。

 たとえば、ゼリーをスプーンで潰してみてください。潰した後の表面から水は漏れず、小さいゼリー片となるだけです。すなわち、潰す前の中身の水は流れるはずなのに、潰したことにより表面となった途端に流れなくなる。では、なぜ水は流れ出てこないのでしょう。よく勉強してきた人は、表面張力があるから、と答えるかもしれません。我々が問いかけているのは、本当にそれだけですか、という質問です。
 これらを研究するにあたり、我々は共焦点ラマン顕微鏡という装置を使います。現時点で、世界で共焦点ラマン顕微鏡を用いてゲル界面を観察しているのは我々だけです。光さえ透過すれば、固体、液体、ゲルなどの状態に関係なく、物質の濃度分布を3次元で透視できます。ゲルの表面や界面を知ることは、ゲルの強度や粘着力だけでなく、ゲル状化粧品や医薬品の成分透過性などの応用に役立ちます。


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